ユバールの星空

忘れたくないキラメキを、拙い言の葉でそっと閉じ込めて

「アイの歌声を聴かせて」を観てきた

TLの評判の良さに惹かれて観に行ってきた。今年自分が見た映画はどれも粒揃いで優劣付け難いくらい良かったが、「アイの歌声を聴かせて」もそれに負けない傑作だった。

簡単ではあるが感想を書こうと思う。そろそろ公開終了してしまうっぽいのでまだ観てない人は見て欲しい(けどごめんあらすじ以外はネタバレありで書くね)

 

※私が記事書くのクッソ遅かったので多分公開もうほぼ終わりました。マジで良かったんでサブスクなり追加されたら見て欲しいです。

 

簡単なあらすじ

本作は今より少しAI技術が発達した日本を舞台とした、ちょっびりポンコツなAIシオンと主人公のサトミを含む少年少女たちによる青春群像劇だ。

研究者であるサトミの母が作ったAIが、試験の為にAIである事を隠されて里美の学校に転校して来るも、初日で里美を含む一部のクラスメイトにバレてしまう。

どうにか母の試験を成功させる為にシオンがAIである事を秘密にして貰うものの、突然歌い出し校内のAIを暴走させるシオンに振り回され、それに巻き込まれる同じ秘密を抱えた者同士の絆が段々と深まり、各々の抱えた問題がシオンをきっかけに徐々に解決されていく。

前半はそんな少年少女達とAIの馴れ初めを描くドタバタなハートフルエンターテイメント、

後半は闇の企業に捕まったシオンを奪還する感動ストーリーという構成だ。

 

 

感想(※ネタバレあり)

「AIを題材にした作品のコケる率は高い」なんて偏見を持っていたので見る前はおっかなびっくりしていたが、そんな杞憂を軽く吹き飛ばすくらいに見やすく説得力のあるパンチで急所をブチ殴られた。

大筋は王道ではあるが、「AI」と「愛」を掛けて欠けた家族の愛情そしてシオンとサトミの人とAIを超えた愛が、懇切丁寧に描写されていて珍しくハンカチ持って来なかった事を後悔するくらいに感動した(マスクしてるからこその今らしい弊害ですね。マスクべちょべちょになると寒い)

 

AI描写を細部までこだわっているのが、やはりこの作品の一番力が入ったポイントだ。AIの身近さが今まで見てきた作品の中でも一番高い。あと5年以内にはこういう社会になっているだろうなってリアリティがとにかく高いのだ。

田舎によくある二階建て一軒家にAI搭載家電が完備されていて、ア〇クサみたいに話しかければ今日の天気や気温、母親の帰宅時間や今日のスケジュールなど何でも答えてくれるし、おまけに料理の火加減調整何かも自動で行ってくれる。

何気ない背景描写にも近未来感が滲み出ていて、AIが自動運転する通学バスや、AI運転車両侵入禁止の標識、あと終盤のここぞって場面で人を轢く前にエンジンが止まるバイクが出て来たのも面白かった。

スターウォーズR2D2みたいなボトル型清掃AIや、柔道に付き合ってくれる人型ロボが当たり前のように学校中に存在していて、困ったらスマホのカメラでAIの緊急停止が出来るって辺りもこの先ありそうな展開だなと思った。

(あと個人的にはAI作品特有の、「世界システムが完璧過ぎるから人為的なガバで展開の流れを作っていく」場面がめちゃくちゃ好きでしたね。母親のパスワードを娘が暗記してるとか、父親の社員証パクって会社に侵入とか。)


シオンのAIとしての描写もかなり拘りが感じられて、動作も表情も見ていてとても楽しかった。

写真を撮るシーンが顕著だったが、焦点がどこか他とズレていたり、口の開き方が中途半端だったり、表情の取り繕い方が下手くそな所がまだまだ発展途中の機械っぽくてとても愛らしい。

アニメの場合、人間とAIの描き分けは難しい。逆に機械っぽさが垣間見えた方が不気味の谷に近付いてる気がすると思った。

 

そんなAIらしさは行動にも表れている。

突然校内で歌い出して即興のミュージカルを始めたり、会話の文脈ぶった切って「ねぇ今幸せ?」と聞いて来たり、人の意を介さず突拍子もない行動をする。

「サトミの幸せ」だけを目的に行動する彼女は、時に健気に映り時に機械的な冷たさや隔たりを感じさせる。

やはりAIと人は分かり合えないのか?

そんなことはない。

シオンの歌が心を繋ぐ架け橋になるのだ。


この作品のもう一つの魅力は歌そしてミュージカルだ。

歩み寄りはミュージカルの形で進行し、シオンの想いは歌詞に乗る。

シオンの歌がめちゃくちゃに上手いのもあるが、演出がどれもお洒落で目と耳の両方から惹き込まれ、観客を巻き込む形でシオンの独自の世界を理解させられていく。


特に自分は柔道場でのミュージカルが一番良かった。

「柔道」と「ミュージカル」という一見ミスマッチな組み合わせだが、今までのバラード調から一転して渋くてカッコ良いジャズ調の曲とキレのある体術アクションがベストマッチした迫力の映像で、一気に作品にのめり込まされる。

この先100年は柔道でミュージカルをしようなんて奇抜なアイデアは出て来ないと思うし、アイ歌以上に美しく調理する事は出来ないであろう。

そう確信させる位、胸に響いた。


歌やAIなど色々なテーマに手を出しつつも、ハートフルストーリーとしての軸はブレていない。

人間と非人間の関係を描く作品は古今東西を通じて描かれて来た。

その中でAIは今最も人間に近い非人間と言っても過言ではない。

人間の命令に忠実に従う機械でありながら人間ではないAIは、かなり扱い辛いテーマである。

しかし「AIが人間の心を獲得しました」なんてご都合展開に逃げず、「AIはAIのままでも人間に寄り添い人間を幸せに出来るんだよ」と言い切ってくれたのは見ていてとても気持ちよかった。

 

最初から最後までシオンはずっとシオンであり、人間に「サトミを幸せにして」と命令されたからサトミを幸せにしようと願い行動して来た。

個人的にこのシオンのひたむきな献身ぶりに泣かされた。

しかし頭の隅で「もし他の命令をしてしまったら」という引っ掛かりも感じた。

そういう警鐘も含めて、AI考証がしっかりしていて見やすかったなと思う。

 

おわりに

アイ歌は、今までのトンチキ文脈のAI作品でスれた態度を改めさせ、AIの可能性を期待させてくれる光の強い作品だったと思う。

自分も直近でシオンが奪還できないまま終わるアイ歌BAD END的な作品に囚われ続けて来たので、シオンが助かって終わるこのハッピーエンドに何故か安堵し涙が出て来てしまった。

自分が囚われて来た作品は、闇の組織に捕まり記憶をほぼ消され廃人状態にされ介護エンドになるのがテーマとしてやりたかった事なんだと分かってはいるが、ご都合でもいいから奪還編が見たかったなという想いがあったので個人的にはようやく浄化されたと思う。

 

本当はもう少し書きたい事もあったが、記事を二週間寝かせて自分が書きたい事もバラバラになって来たので区切りは悪いがここらで終わりにしたいと思う。